領主権廃止は自作農を創設したものではない

ともかくフランス革命で領主権は無償で廃止された。それが、従来は、つまり私が言うまでは、1793年だとされていたが、正しくは1792年のことであった。
さて、両主権が廃止されると、自作農が創設されたことになる。これが従来の学説であった。フランスでは、革命によって、大量の自作農が創設された。これは全世界的に承認された学説であった。こういうものを土地革命という。「我が国にも土地革命を」、「あの国には土地革命があったかなかったか」、こういうことが議論されたものである。
本当にそうか。私は研究しているうちに疑問を感じ始めた。というのは、フランスの研究者が実証的に研究した結果、その逆の結論を出していたからであった。この時期、だれもが、自作農創設の理論を実証することに学問的情熱を傾けた。特定の地域の土地台帳を調べ上げ、どれだけの自作農が作り出されたかを実証する。やってみると逆の結果が出る。思ったほどの自作農が作り出されていないという。フランスは実証主義の国、事実が理論にあわないと、事実を優先する。大多数の学者の結論がこうなった。ごく一部の学者が、「それでも自作農は創設された」と事実からは飛び離れて、「理論ありき」の結論を発表をした。
その両方の学説が、戦後の日本にどっと持ち込まれた。日本のフランス革命史家はまず全員、今までの理論に合わせて事実だけを自分の都合の良いように紹介して、フランスの研究者の名前だけを利用して、「つまりこのように自作農の大群が作り出された」というような結論をを書いていた。はっきり言うと、「インチキ極まりない引用の仕方」であった。
私は、事実を調べて見ると、「どうも違う」という意見が多いのだから、理論を優先するか、事実、実験の結果を優先するかといえば、残念ながら実験の結果を優先せざるを得ないだろうという、自然科学の態度を堅持するべきであろうと考えた。
実は私は理科から文転してきた人物で、他の研究者が文科系オリジナルであるのとでは気質が違うことを痛感していたのであります。そこで、私はこの文章を書きながらも、理科系で、社会科学に興味を持つという人たちに期待をかけているのです。これが私の本音です。
さて、そこで事実を優先すると、以下のようになります。一つの領地があるとする。城の周りの直領地、馬で走り回れる場所、これが約半分とする。その外側に、領民に貸している保有地がある。その保有地の封建貢租がかけられている。これを領主権という。収入の約一割程度。これに加えて、不動産売買税があるけれども、これは売らなければかからないから、今は論外とする。この領主権が無償で廃止された。これをもって、自作農の創設といえるかどうか。「言えないでしょう」。ただ負担が軽くなっただけでしょう。自作農の創設というのは、昔は土地持ちでなかったが、今は生活できるだけの土地を持てるようになった人たちが大量にできたということです。そういう土地所有権の移動という現象は起こっていないのです。これを冷徹にみることなしに、感覚的に理論だけを優先させる、こういうやり方は非科学的だといわざるを得ません。

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