第三十七条 逢危須棄、おうきすき

危うきに合えば、すべからく捨てるべしとなる。これはどうもがいても、取られる。もう一つ、これは、這う這うの体で生きても、のたうち回っているうちに周りを固められ、生きた瞬間に、碁は地が足りなくて負けるであろう。こう予測できる状態が、危いということである。その時に、素早く決断を下す。「これは捨てよう」と。次に、「ただではやらない」と知恵を巡らす。これを「値切る」という。これなら取られた石も役に立つ。このようにして、碁に勝つ。しかしこれがなかなかできない。捨てる能力と棋力は並行している。捨てる能力を磨けば、棋力は上がる。私が4段当時、プロ棋士に三子で打ってもらったことがある。中盤の終わりころ、中央に白石の壁ができ、それに黒石二つ、三線,四線にはりついて立っている。これから三間に開いて生きてやろうと思って、そのように打ったところ、すかさず一間につめられた。それから苦しくなって、負けてしまった。局後の感想で「こんなカス石を助けに来るなんて、何するんですか」と言われた。私は心の中で、「カス石とはひどいじゃないか。義をみてせざるは勇なきなりだよ」と思ったが、今にして思えば、これが4段程度の見識で、これでは碁に勝てないということである。